[閑話休題]お笑い番組の枠を超える「個の熱量」―『東野山里のインプット』に学ぶ人的資本経営の本質

現代の経営において、最も注目されているキーワードの一つが「人的資本経営」です。
人的資本経営とは、人材を、消費される「資源」ではなく、企業価値を中長期的に高めるための「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出す経営手法を指します。

この最先端の経営理論の極めて本質的な体現を、実は意外な場所に見出すことができました。
それが、BSよしもとで放送されているバラエティ番組『東野山里のインプット』です。

たまたま見かけただけなのですが、一気にハマりました。

吉本興業の若手・中堅芸人たちが、自身の持つ特技やニッチな知識を、MCの東野幸治氏と山里亮太氏(南海キャンディーズ)にプレゼンテーションする。
そのテーマは、執筆時の新しい方から遡る順で、「スーツ」「鎌倉幕府」「天気」などがあり、それ以前にも「太宰治」「マンガ大賞」「相対性理論」「城」など、極めて多岐にわたっています。

https://youtube.com/watch?v=dEHVEHpnWu4%3Frel%3D0

一見、単なるエンターテインメントに過ぎないこの番組の構造には、これからの経営層が学ぶべき「個の可能性」を組織価値へと転換する強力なヒントが隠されています。

目次

  1. 人的資本経営の本質と「個の埋もれた資産」の再定義
  2. 心理的安全性とインプットを促進する「場(Ba)」の設計
  3. 価値創造の好循環――キャリア自律とエンゲージメントの向上
  4. 多様性(ダイバーシティ)の統合がもたらすイノベーション
  5. 持続的な企業価値向上へ向けて

人的資本経営の本質と「個の埋もれた資産」の再定義

従来の管理型経営においては、組織が定めた既存の枠組みや職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に人間を当てはめることが一般的でした。
今でもそうした経営をされている企業も、非常に多いと思います。

しかし、人的資本経営が目指すのはその逆です。
構成員一人ひとりが持つ固有の無形資産(インビジブル・アセット)を発掘し、投資し、活用することです。

「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」

経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す」

『東野山里のインプット』に登場する芸人たちの知識は、必ずしも彼らの本業である「漫才」や「コント」、「ひな壇トーク」に直接直結するものばかりではありません。

例えば、ガクテンソクの奥田修二氏がプレゼンした「鎌倉幕府」の回や、ドンデコルテの渡辺銀次氏が語った「スーツ」の回など、個人の純粋な偏愛と熱量から蓄積された知識です。

https://youtube.com/watch?v=atOuMJihGr8%3Frel%3D0
https://youtube.com/watch?v=atOuMJihGr8%3Frel%3D0

経営組織に置き換えるならば、これは、
「業務外の趣味」
「前職でのニッチな体験」
「個人的な価値観」
などに相当します。

一見して現在の事業には無関係に思えるこれらの「個の資産」を、組織は「ただの趣味」として埋もれさせてはいないでしょうか。

彼らの持つ眠れる資産を組織の表舞台へと引き出すことこそが、人的資本経営の第一歩となります。

心理的安全性とインプットを促進する「場(Ba)」の設計

どれほど優れた個人の知識や熱量があっても、それを表明できる環境がなければ意味をなしません。
ここで重要となるのが、組織行動学で言われる「心理的安全性」であり、知識創造理論(SECIモデル)における「場(Ba)」の概念です。

「組織やチームの中で、対人関係のリスクを恐れずに、自分の意見・質問・違和感・失敗を率直に表明できる状態」のこと

Commune「心理的安全性とは?」

個人が持つ経験や直感などの『暗黙知』を、言葉や図などの共有可能な『形式知』に変換し、組織全体でさらに新しい知識を生み出していくためのフレームワーク。
「現場の知恵からイノベーションが生まれるプロセス」を体系化したもので、ナレッジマネジメント(知識経営)の世界的基盤

日本の人事部「SECIモデル(セキモデル)とは」

番組において、この「場」の質を圧倒的に高めているのが、東野氏と山里氏という二人のリーダーの存在です。

彼らは、大抵の場合が後輩であるプレゼンターたちと、対等な関係で向き合います。
彼らが持ち込む、どんなにマニアックなテーマに対しても、決して頭ごなしに否定することはありません。
それどころか、むしろ嬉々として、その圧倒的な傾聴力と鋭い引き出し力によって、発表者の熱量をさらに増幅させていきます。

画像

このリーダーシップのあり方は、マネジメント層にとって極めて示唆に富んでいます。

従業員が新たな提案や独自のインプットを組織内で開示しようとした際、上司が、
「それは今の売上に繋がるのか」
「うちの部署の仕事ではない」
と一蹴してしまえば、二度と暗黙知が形式知へと変換されることはありません。

どんな突飛な意見であっても耳を傾け、関心を持って関わる風土の設計こそが、組織全体のインプット効率を最大化させます。

価値創造の好循環――キャリア自律とエンゲージメントの向上

人的資本経営が単なる「従業員満足度向上」と一線を画すのは、それが組織の持続的な成長(売上・利益)と個人の成長(キャリア自律)の双方を両立させる点にあります。

『東野山里のインプット』において、この成果は極めて明確な形で現れています。
番組の公式切り抜き動画が驚異の1,000万回再生を突破するなど、番組(組織)としてのコンテンツ力と認知度は爆発的に向上し、結果として媒体価値を高めています。

そして最も特筆すべきは、参加した芸人たちのその後の変化です。

この番組でのアウトプットを契機に、別の地上波番組への出演オファーが舞い込んだり、書籍の出版へと繋がったりするケースが実際に生まれています。

https://youtube.com/watch?v=1YNnZ7ilDeg%3Frel%3D0

組織が提供した「場」によって、個人の専門性や強みが社内外から正当に評価され、新たなキャリアの機会が創出されるのです。

この「個のキャリア自律」の実現は、従業員の組織に対するエンゲージメント(自発的貢献意欲)を爆発的に高めます。

自らの可能性を広げてくれた組織に対し、より高いパフォーマンスで応えようとするのは必然であり、ここに「組織の売上向上」と「個のモチベーション向上」が相乗効果を生む、価値創造の美しいサイクルが完成します。

多様性(ダイバーシティ)の統合がもたらすイノベーション

予測不可能で変化の激しい現代のビジネス環境において、過去の成功体験の延長線上に答えはありません。

経営戦略において「知の探索と深化(両利きの経営)」が叫ばれるように、イノベーションは「既存の知と、遠く離れた未知の知との新結合」から生まれます。

イノベーションの有名な話として、スティーブ・ジョブズの逸話があります。
≪ iPod ≫  +  ≪ 電話 ≫  →  ≪ iPhone ≫
ご存じの様に、iPhone(スマホ)は、その後の社会を変容させるレベルでイノベーションを起こしました。

番組が毎度異なるジャンルの知識を次々とインプットしていく姿は、まさにこの「知の探索」そのものです。
共通のテーマで均一化された組織からは、持続的な新規性は生まれません。

従業員それぞれが異なるバックグラウンドを持ち、異なる体験から得た価値観を経営に統合(インクルージョン)していくことこそが、組織に予測不可能なイノベーションの種をもたらします。

https://youtube.com/watch?v=VRDytl36t5g%3Frel%3D0

持続的な企業価値向上へ向けて

『東野山里のインプット』という一つのバラエティ番組は、個のエンゲージメント向上と組織のブランド力・売上強化を同時に達成している、極めて優れた人的資本経営のケーススタディです。

経営者は今一度、自社の従業員を振り返る必要があります。

彼らが日々蓄積している「一見ビジネスに関係のなさそうな熱量や知識」を、単なる個人の私生活として過小評価していないでしょうか。

彼らの個性を開花させ、新たなビジネスチャンス(他部署での活躍や新規事業の創出という名の「他番組出演や出版」)へと繋げるための投資ができているでしょうか。

構成員の持つインプットを信頼し、それを引き出す「場」を創出すること。それこそが、これからの時代における持続的な企業価値向上の確固たる基盤となるのです。

画像
画像

#東野山里のインプット,
#BSよしもと,
#人的資本経営,
#キャリア自律,
#エンゲージメント,
#心理的安全性,
#イノベーション,
#多様性,
#ダイバーシティ,
#組織開発,
#人材育成,
#経営戦略,
#ビジネスモデル,
#リーダーシップ,
#マネジメント,
#企業価値向上,
#吉本興業,

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA