[転職]第4回:「転職前提社会」は本当に正しいのか ― 少子化時代に問われる“雇用を守る力”

【序章】:「転職当たり前論」が広がる時代

今の時代、「転職は当たり前」という言葉を聞く機会がかなり増えました。

終身雇用崩壊。
ジョブ型雇用。
リスキリング。
キャリア自律。
様々な言葉が並び、「一つの会社に居続ける時代ではない」と語られることも増えています。

確かに、それ自体は間違いではありません。

実際、昔のように、「会社に人生を預ければ守られる」なんて時代ではなくなりました。
だからこそ、転職という選択肢そのものは必要です。

ですが一方で、ここ数年の空気には、少し危うさも感じます。

それは、“人が流動化し続けること ” そのものが、まるで正義のように扱われ始めていることです。

しかし本当に、それは持続可能なのでしょうか。

目次

  1. 【序章】:「転職当たり前論」が広がる時代
  2. 【第1章】:“人が余る時代”は終わった
  3. 【第2章】:「辞めても補充できる」が崩壊する
  4. 【第3章】:人的資本経営の本質
  5. 【第4章】:転職自由と、「働き続けられる環境」は別問題
  6. 【第5章】:主体性とは、「自由に辞めること」ではない
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【第1章】:“人が余る時代”は終わった

現在の日本で起きている人手不足は、一時的現象ではありません。

少子化。
労働人口減少。
若年層不足。
これは既に、「構造問題」です。政治が上手く機能しなかったことが引き金で起きた問題です。

実際、内閣府「令和4年版高齢社会白書」などでも、生産年齢人口の減少は長期的に続くことが示されています。

かつ、2024年の出生率が大幅に予定を下回ったことで、少子化が14年も加速度的に進むことも分かっています。

労働市場には人がいない上で、この先25年以上減り続けていくのが現代の日本です。

政府がいきなり正気を取り戻して少子化対策を本気で取り組んだとしても、現在の独身世帯が貯蓄を増やし、結婚をし、子どもが生まれて… その子たちが高卒で働くとして25年後です。

残念ながらこれは推測ではなく、既定された未来です。
ドラッカーの言うところの、「すでに起こった未来を見ること」で気付く日本の未来です。

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内閣府「令和4年版高齢社会白書」

しかも現実には、その推計以上のスピードで現場疲弊が進んでいる業界も少なくありません。

つまり今後の日本では、“人が足りない状態 ” が、何十年単位で続くのです。
にもかかわらず、社会全体はまだ、「辞めたら補充すればいい」という感覚から完全には抜け出せていません。

補充するのは高卒ですか? 定年を過ぎたシルバー人材ですか? 外国人労働者ですか?
実際、既にそれぞれに動き出している企業も多いのが、現代の日本なんです。

ご存じの様に、現場では既に崩れ始めています。
・募集しても来ない。
・採用しても続かない。
・育てる前に辞める。
特に中小企業では、この現実が深刻です。

しかも問題なのは、単純な人数不足だけではありません。
“ 育てる余力 ” そのものが消え始めていることです。

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【第2章】:「辞めても補充できる」が崩壊する

かつての日本企業には、「長く育てる」という文化がありました。

もちろん昭和型雇用には問題も多かった。
ですが一方で、「時間をかけて人を育てる」という発想そのものは、確かに存在していました。

しかし現在は、そこが急速に崩れています。

理由は単純です。
人が定着しないからです。

すると企業側も、「どうせ辞めるかもしれない」という前提で、人材を見るようになる。

結果として、
・教育投資が短期化する。
・管理が強くなる。
・即戦力ばかり求める。
・余裕が消える。

すると今度は、若手側も、「この会社では成長できない」と感じ始める。

つまり、
“人が辞めるから育てられない ”
“ 成長できないから辞める ”
という悪循環が起きます。

しかも現在は、現場管理職の疲弊も深刻です。
・マネジメント業務に加えてのプレイヤー業務。
・数字責任。
・コンプライアンス。
・ハラスメント対応。
・採用。
・育成。

あらゆる負荷が、管理職の肩に集中している。
その結果、「人と向き合う余力」そのものが失われ始めています。

時間的、精神的余裕がなくなっていると、誰もがそうなりますから、これは決して管理職の能力不足などという話ではありません。

だから最近は、「若手が育たない」のではなく、“ 育てられる状態そのものが崩れている ”

そんな会社が増えているのです。

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【第3章】:人的資本経営の本質

ここ数年、「人的資本経営(Human Capital Management)」という言葉が急速に広まりました。

人的資本経営(Human Capital Management)
従業員(人材)を管理・消費すべき「コスト(資源)」ではなく、価値を生み出す「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営手法

端的に言えば、人を、単なる労働力ではなく、“継続的価値を生む存在”として捉える考え方です。

方向性そのものは、間違っていません。

ですが現実には、経済産業省のホームページなどをみていると、“投資家向けアピール”として大企業に義務付け、本質を見失ったまま消費されている場面も少なくありません。

例えば、
・研修実施回数
・女性管理職比率
・エンゲージメント数値
・離職率
こうした“見える数字”だけが重視される。

しかし本質は、そこではありません。

本当に重要なのは、
「人が残るか」
「人が育つか」
「人が繋がるか」
です。

その為に従業員一人ひとりの知識・経験・能力などを、いかに活かすか、です。

どれだけ立派な制度があっても、現場で、
・相談できない
・挑戦できない
・失敗できない
・本音を言えない
そんな空気になっていれば、人は定着しません。

逆に、中小企業でも、「この会社のために頑張りたい」
そう思える関係性がある会社は、意外なほど人が残ります。

つまり人的資本経営の本質とは、“人を管理すること”ではありません。

” 従業員の持ち味を経営の武器とすること ”、その為にも“企業と従業員との関係性を維持できるか”なのです。

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【第4章】:転職自由と、「働き続けられる環境」は別問題

もちろん、辞める自由は必要です。
職業選択の自由は日本国憲法にも明記されている、基本的人権の一つです。

逃げ道の無い社会は、人を壊します。

実際、日本社会は長年、
「我慢すること」
「耐えること」
を美徳化し過ぎました。

その結果、
・休職。
・うつ。
・適応障害。
・家庭崩壊。
そうした問題が、数多く起きてきました。

だから、「辞める自由」は、大事な選択肢としても必要です。

ですが一方で、“ 続けられない社会 ” まで正当化してはいけません。

人が定着しない。
育たない。
繋がらない。
そんな状態が常態化すれば、最終的に疲弊するのは現場です。

特に中小企業では、その影響が直撃します。

しかも現在は、「人が辞めること」以上に、“人が未来を描けなくなること”の方が深刻です。

これは社会問題にも現れています。
夢を描けない、語れない子ども達・若年層のなんと多いことか! もちろん大人などもっと夢を描けずにいます。

「どうせ頑張っても変わらない」
「どうせ会社は守ってくれない」
「どうせ使い捨て」
そう感じた瞬間、人はやりがいを失い、モチベーションは地に落ちます。

つまり本当に危険なのは、「転職すること」ではありません。
“ 誰も、長く関わろうと思えなくなること ” なのです。

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【第5章】:主体性とは、「自由に辞めること」ではない

このシリーズでは、「主体性」という言葉を何度も扱ってきました。

ですが主体性とは、「自由に辞めること」ではありません。“ 自分の人生をどう築くか ” を、自分で考えることです。

転職する自由もある。
残る自由もある。

ですが本当に重要なのは、「人を流動化させること」ではありません。
“人が未来を描ける関係性 ” を、どう作るかです。

特にこれからの日本は、人口減少社会です。この先、間違いなく四半世紀(25年)は続きます。

つまり今後は、中小零細企業においては特に、「人が辞める前提」で回す経営そのものが、既に限界になっています。

だからこそ、これからの経営に必要なのは、採用力だけではありません。

「この会社で働き続けたい」

いかにそう思われる関係性を築けるか。そこが、企業の生存力そのものになっていきます。

だからこそ、人事の重要な役割でもある「人材育成」が、企業の未来を担うのです。

主体性は、放置では育ちません。管理だけでも育ちません。

人は、
「ここで働きたい」
「この人たちと働きたい」
「ここなら未来を描ける」
そう思えた時に、初めて主体的に動き始めます。

転職時代に本当に問われているのは、「辞める自由」ではありません。

従業員側には、“どう働く人生を選ぶのか”
そして企業側には、“人が未来を描ける関係性を築けるか”

が、今まで以上に問われているのです。

いつまでも他人事として構えていると、
数年後に人手不足で… となってしまうのは、どこの会社なのでしょうか?

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