[転職]第1回:「人はなぜ会社を辞めるのか」 ― 給料の前に、“関係性”が壊れている

【序章】:「最近の若者はすぐ辞める」の違和感

「最近の若者はすぐ辞める」
今でも、経営者向けセミナーや管理職研修で頻繁に耳にする言葉です。

確かに転職は一般化しました。
終身雇用を前提に“一社で勤め上げる”時代は崩れつつあり、厚生労働省の雇用動向調査でも、転職入職者数は長期的に増加傾向にあります。

しかし、本当に増えているのは「転職」なのでしょうか。

先に転職に関しての私の意見を述べると、私は転職推進派ではありません。
転職は選択肢の一つとして否定するつもりもありませんが、一つのキャリアを考えた際には、しない方が良いものだと考えています。

転職は「結果」です。

その決断の前には、
「もう何を言っても無駄だ」
「ここで頑張る意味が見えない」
「自分は必要とされていない」
そんな感覚の積み重ねがあります。

つまり多くの場合、人は辞表を書く前に、心理的に会社を辞めています。

もちろん給与や待遇も重要です。
ですが給与だけが原因なら、高年収企業で大量離職が起きる説明がつきません。逆に、高給ではなくても、人が長く残る会社もあります。

この違いを生んでいるものは何か。

そこには、“人間関係”という単純な言葉だけでは片付けられない、「組織との関係性」が深く関わっています。

今回は、その背景を「若者論」ではなく、時代変化と組織風土の視点から掘り下げていきます。

目次

  1. 【第1章】:昭和時代の「就社」という構造
  2. 【第2章】:令和時代、“関わらない組織”が増えた
  3. 【第3章】:人は、辞表を書く前に辞めている
  4. 【第4章】:離職は、空気として伝染する
  5. 【第5章】:今の若者は、本当に“すぐ辞める”のか
画像

【第1章】:昭和時代の「就社」という構造

昭和期の日本では、多くの人にとっての就職は、「就職」というより「就社」に近いものでした。
“仕事に就く”というより、“会社に所属する”感覚です。

背景には、
・終身雇用
・年功序列
・企業別組合
・大黒柱モデル(自分の収入で家族を養う、とした男性に多い「思い込み」)
などの日本型雇用の仕組みがありました。

当時は、「会社に残ること」が生活の安定に直結していました。

高度経済成長期からバブル期にかけては、「一家の大黒柱として働けば家族を養える」という前提(先の「大黒柱バイアス」に繋がる)も、ある程度成立していた時代です。

もちろん、理不尽な上下関係や長時間労働も存在していました。
それでも、
「頑張れば生活が安定する」
「働いた分、ちゃんと給料が貰える」
「長く勤めれば報われる」
という感覚は、比較的共有されていました。

だから人は、会社に忠誠を尽くしました。

そして同時に、“辞めにくかった”。
転職市場は未成熟で、退職は生活基盤や社会的信用を失うリスクに直結していたからです。家族を養えなくなってしまうのです。

ただ、その一方で、当時の職場には今よりも“濃い関わり”がありました。

・上司が部下を叱る。
・上司の奢りで飲みに連れていく。
・社宅等もあり、家族ぐるみの付き合いがある。
今なら問題視される場面も多かったでしょう。

しかし少なくとも、
「気に掛けられている」
「放置されていない」
という感覚は、今より強かったように思います。

もちろん、昭和型組織を美化したい訳ではありません。
精神論。
同調圧力。
サービス残業。
パワハラ気質。
今なら到底許されない問題も大量にありました。

それでも、“組織との繋がり感覚”が存在していたことは無視できません。そして現代では、この「繋がり」が急速に弱くなっています。

画像

【第2章】:令和時代、“関わらない組織”が増えた

現代の職場では、「関わり過ぎるリスク」が急激に高まりました。

・コンプライアンス強化
・ハラスメント回避
・管理職余力の消失
・個人主義化
こうした変化の中で、多くの組織が“距離を取る方向”へ進み始めています。

怒らない。
踏み込まない。
深く聞かない。
育成にも時間を掛けない。

一見すると、昔より「優しい職場」に見えるかもしれません。
しかし実際には、“ 衝突を避け続けた結果、誰も本気で向き合わなくなった組織 ” も増えています。

特に管理職側は難しい立場です。
・少し強く言えば「ハラスメントと言われる」
・細かく聞けば「干渉し過ぎ」と言われる。
・部下との距離感を間違えれば問題化する。

遠慮と警戒の結果、「余計なことは言わない方が安全」という空気が広がっていきます。

すると何が起きるのか。
どんな影響に繋がってしまうのか。

【人材育成が止まる】

これは大問題です。
会社の将来を担う若者が育たなくなります。

本来、成長には適切なフィードバックや衝突が必要です。しかし無難さを優先し続けると、誰も「適切な指導」も「本音」も言わなくなる。

結果として職場には、「波風は立たないが、熱量もない」そんな空気が定着していきます。

そして人は、“無関心”に非常に敏感です。
厳しく叱られた経験よりも、上司から何も言われないことを「期待されていない」と感じた記憶の方が深く残ることもあります。

関わられない場所では、人は徐々に会社との心理的繋がりを失っていくのです。

画像

【第3章】:人は、辞表を書く前に辞めている

会社側はよく、
「突然辞めた」
「急に転職してしまった」
と言います。

しかし本人からすると、多くの場合、“かなり前から終わっています”。

最初に起きるのは、退職ではありません。
[心理的離職]です。

・発言しなくなる。
・提案しなくなる。
・挑戦しなくなる。
・最低限しかやらなくなる。
心当たりはありませんか? そして静かに、転職活動を始めていきます。

この問題が本当に気付きにくい理由は、「周囲から見えにくいこと」です。

・表面的には普通に働いている。
・遅刻も少ない。
・最低限の業務もこなしている。
しかし心の内では、既に会社との関係が切れているのが離職者の心理です。

だから会社側は、「昨日まで普通だったのに」と感じます。
ですが本人からすると、むしろ「ようやく辞められる」という感覚に近い場合も少なくありません。

そして心理的離職が始まると、人は徐々にエネルギーを失っていきます。

新しい提案をしなくなる。
改善提案を諦める。
余計な責任を避け始める。

なぜなら、心が離れているということは、
「会社がどうなっても、もうどうでも良いから」
です。

これは「どうせ変わらない」と学習してしまった結果です。

つまり離職とは、突然起きるイベントではありません。

長期間積み重なった関係断絶の最終結果なのです。

【第4章】:離職は、空気として伝染する

離職は、個人問題では終わりません。

人の離職は、周囲の離職意識にも大きな影響を与えます。
特に、「あの人が辞めるなら…」という感覚は強力です。

信頼されていた人。
現場を支えていた人。
空気を良くしていた人。
そうした人が辞めると、残った側は考え始めます。

これは「離職の伝染(Turnover Contagion)」という考え方で解説されています。

離職の伝染(Turnover Contagion)
あるメンバーの離職(特にキーパーソンや信頼の厚い同僚)が、周囲の心理や行動に影響を与え、ドミノ倒しのように離職が続いていく組織現象。

ウィル・フェルプス 教授/ テレンス・ミッチェル教授 / トマス・リー教授

「この会社、本当に大丈夫なのか」
「優秀な人ほど辞めていないか」
「自分も他を見た方が良いのではないか」
こうして離職不安は、静かに広がっていきます。

特に中小企業では、一人の離職インパクトが非常に大きいのです。
・現場負担が増える。
・教育余力が消える。
・管理職が疲弊する。
すると空気が悪化し、更なる離職を呼び込みます。

まさに負の連鎖です。

逆に言えば、良い関係性もまた伝染します。
「この人たちと働きたい」
「ここなら安心して相談できる」
そう思える空気は、人を繋ぎ止めます。

つまり離職問題とは、単なる採用課題と捉えていては終わりません。
組織風土そのものの問題なの考えなくては危険なのです。

画像

【第5章】:今の若者は、本当に“すぐ辞める”のか

「Z世代は昇進に興味がない」
「どうせ転職前提で働いている」
そう語られる場面もあります。

しかし実際には、それは誇張されたごく一部の話です。

私自身が新入社員研修の場で直接確認した際も、7割以上が昇進・昇級を望んでいました。

つまり若手側も、本当は成長したい。
評価されたい。
必要とされたい。
そう感じている人は決して少なくありません。

一方で、時代背景は確実に変わっています。

・少子化
・未婚化
・共働き化
・物価高騰
・終身雇用崩壊

もはや昔のように、「会社に人生を預ければ守られる」という前提は崩れています。

にもかかわらず、経営者側だけが昭和型忠誠心を求め続けている場面も、今なお少なくありません。

特に、
「昔は皆もっと我慢した」
「若いうちは苦労して当然」
という感覚のまま、時代変化を直視できていないケースも散見されます。

しかし現在の若手は、「耐える意味」が見えなければ動きません。
逆に言えば、意味を感じられる環境では、驚くほど真剣に働きます。

つまり今起きているのは、“若者が弱くなった”のではありません。
“関係性を維持できない会社”から、人が離れているだけなのです。

そして人は、「関われない場所」で主体性を失っていきます。


次回は、「転職には二種類ある」
というテーマから、“主体的な転職”と“逃避的な転職”の違いを掘り下げていきます。

画像
画像

#転職 , #離職 , #離職防止 , #人材定着 , #組織風土 , #エンゲージメント , #心理的離職 , #心理的安全性 , #人間関係 , #管理職 , #リーダーシップ , #人材育成 , #組織開発 , #職場改善 , #働き方 , #企業文化 , #中小企業 , #経営者 , #マネジメント , #職場環境 ,

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA