[保身]第1回 なぜ人は“保身”に走るのか ― 主体性を奪う前提条件

主体性は求められている。それでも現場にないのはなぜか。

 近年、多くの企業が人材に求める資質として「主体性」を挙げています。

厚生労働省の「令和5年若年者雇用実態調査」によれば、企業が採用時に最も重視する資質の第1位は「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」です。

つまり、「自ら考え、動こうとする姿勢」が、採用の段階から最も重視されているということです。

しかし一方で、現場では次のような声が聞かれます。

・指示待ちが多い
・余計なことをしない
・自分から動かない

こうした状況に対して、
「主体性が足りない」
「最近の若手は受け身だ」
といった評価がなされることも少なくありません。

ですが、本当にそうでしょうか。

問題は「主体性がないこと」ではなく、
『主体性を出さない方が合理的な状態』が生まれていることにあるのではないでしょうか。 

目次

  1. 主体性は求められている。それでも現場にないのはなぜか。
  2. 第1章 保身とは何か ― 人が自然に持つ「回避の本能」
  3. 第2章 なぜ主体性より保身が優先されるのか
  4. 第3章 保身は“環境風土によって引き出される”
  5. 第4章 見えている行動は、本当に「能力の問題」なのか
  6. 第5章 経営者が最初に持つべき視点

第1章 保身とは何か ― 人が自然に持つ「回避の本能」

まず前提として、「保身」とは何かを整理しておきます。

保身とは、
『損失や不利益、評価の低下、責任追及といったリスクを避けるための行動』です。

例えば、次のような行動です。
・余計な提案をしない
・問題に気づいても言わない
・指示されたことだけをやる
・ミスや不都合を隠す

ここで重要なのは、保身は特定の人の問題ではないという点です。

これは誰の心にも潜んでいる、ごく自然な反応です。
人は本能的に、自分を守るように行動します。

つまり保身とは、『合理的な防衛反応』なのです。

第2章 なぜ主体性より保身が優先されるのか

主体性とは「踏み出す行動」です。
一方で保身とは「隠す・誤魔化す行動」です。

この二つは、構造的に対極にあります。

ここで関係するのが「損失回避バイアス」です。

損失回避バイアスとは、同額の「得(利益)」を得る喜びよりも「損(損失)」を被る苦痛の方を約2倍も強く感じ、得をすることよりも「損を避けること」を無意識に優先して行動を選択してしまう心理的傾向のことです。

人は、何かを得る喜びよりも、何かを失う痛みを強く感じる傾向があります。新しい挑戦よりも、失敗することを怖がるんです。

これを職場に当てはめると、
・挑戦して成功しても評価は限定的
・しかし失敗すれば評価は下がる
・ミスは記憶に残りやすい
という構造が生まれます。

その結果、人はこう判断します。
「動くよりも、目立たない方が安全だ」

こうして、
隠す・誤魔化す・目立たない
という行動が選ばれるようになります。

つまり保身は、消極的なのではなく、『合理的に選ばれた行動』なのです。

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第3章 保身は“環境風土によって引き出される”

同じ人でも、職場が変わると行動が変わることがあります。
ある職場では発言していた人が、別の職場では何も言わなくなる。

この違いはどこから生まれるのでしょうか。

多くの場合、それは環境です。
・上司の反応
・評価の仕組み
・失敗の扱われ方

特に影響が大きいのが、失敗の扱いです。
失敗を強く追及する文化がある組織では、人は次第に「失敗しないこと」を最優先にするようになります。

その結果、
・挑戦しない
・問題を出さない
・ミスを隠す
という行動が生まれます。

つまり、『失敗を追求する文化が、人を保身に走らせる』のです。

ここで起きているのは、人の変化ではありません。
環境によって「出る行動」が変わっているだけです。

言い換えれば、『保身は環境風土によって引き出されている』のです。

第4章 見えている行動は、本当に「能力の問題」なのか

多くの現場では、次のように解釈されがちです。

・指示待ち=考えていない
・発言しない=意見がない
・挑戦しない=意欲がない

しかし、第1章〜第3章の前提に立つと、見え方が変わります。
保身は誰の心にもあり、環境によって引き出されるものだとすると、これらの行動は別の意味を持ちます。

・発言すると否定されるかもしれない
・挑戦して失敗すれば評価が下がる
・出しても意味がない

こうした認識の中で、
・出さない
・隠す
・目立たない
という行動が選ばれている可能性があります。

つまりこれは、能力の問題ではなく、『その環境における合理的な選択』なのです。

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第5章 経営者が最初に持つべき視点

多くの場合、「主体性がない」という課題に対して、教育や意識改革で解決しようとします。場合によっては叱りつけることすらあります。

しかし、その前に考えるべきことがあります。
皆さんの会社の、それぞれの職場環境は、主体性を出したくなる状態でしょうか。
それとも、保身を選びたくなる状態でしょうか。

日々の上司の関わり。
何気ない一言。
評価の仕方。

それらが積み重なり、「何をすると安全か」が学習されていきます。
そして、その結果として行動が決まっていきます。

もしそうだとすれば、主体性を引き出す鍵は、個人ではなく『関わり方と風土』にあるはずです。

では、その保身はなぜ個人で止まらず、組織全体に広がっていくのでしょうか。

次回は、「保身はなぜ伝染するのか」を掘り下げていきます。

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