[人事考課]第2回 「人事考課とは何か」― 会社の“現状”をどう捉えるか

「測っていない」という現実

前回は、企業における「評価」には2つある、という話をしました。

一つは、人事考課(査定評価)。
もう一つは、人事評価(育成・将来づくり)です。

そして多くの企業では、「評価」と言うと人事考課(査定評価)を指していることがほとんどです。

では、その人事考課は本当に機能しているのでしょうか。

ここで一つ、前提を疑う必要があります。

多くの企業では、そもそも人事評価(育成・将来づくり)の視点が十分に意識されていません。
そのため、「現状を正しく測る」という意識自体も弱くなっています。

つまり、キツイ言い方になってしまいますが、
将来への投資のための現在ではなく、過去の結果としての現在としか見ていないのです。

測ろうとしているのではなく、“測っているつもり”になっている状態です。
そして厄介なのは、“測れていないことに気付いていない”ことです。

ここからすべての歪みが始まります。

目次

  1. 「測っていない」という現実
  2. 第1章 人事考課の役割 ― 会社の「現状」を確認する
  3. 第2章 なぜ人事考課は歪むのか ― 人は正確に測れない
  4. 第3章 人事考課の基準が行動を歪める ― 測ることの副作用
  5. 第4章 人事考課が現場に与える影響 ― 主体性はどう変わるか
  6. 第5章 ではどうするか ― 「現状」を未来につなげる視点

第1章 人事考課の役割 ― 会社の「現状」を確認する

改めて、人事考課(査定評価)の役割を整理しておきます。

人事考課とは、成果や行動をもとに、昇給・賞与・昇進といった処遇を決めるための判断です。
しかし、その役割はそれだけではありません。そこで止めていてはもったいない!

人事考課は、
・誰がどのような価値を生み出しているのか
・どのような行動が評価されているのか
を明らかにします。
つまり、会社の「現状」を確認する仕組みです。

そしてもう一つ重要な視点があります。
その結果は、会社の未来を担う人材の育成(人事評価)に繋がるべきものだということです。

人事考課は、単なる査定ではありません。
現状認識の基盤であり、人事評価(育成)の出発点です。

もしこの現状認識がズレていれば、その後の育成や配置、さらには経営判断までもがズレていきます。
名古屋から東京に向かう計画を立てようとしているのに、「実は現在地は北海道に居ました」では、 計画そのものが意味をなさないことも起こり得てしまうのです。

第2章 なぜ人事考課は歪むのか ― 人は正確に測れない

では、その重要な人事考課は、どれだけ正確に機能しているのでしょうか。

多くの場合、「評価は公平に、かつ客観的に行われている」と考えられています。

しかし実際には、人事考課(査定評価)は強く評価者の主観の影響を受けてしまいます。

例えば、次のような歪みです。
・印象の良し悪しに引っ張られる(ハロー効果)
・直近の出来事だけで判断してしまう(直近性バイアス)
・先入観で評価してしまう(ステレオタイプ)
・好き嫌いや相性による影響(感情バイアス)

他にもありますが、これらは人間である以上必ず起こりうる認知の歪みです。

さらに見落とされがちですが、評価者の立場や心理も評価に影響を受けます。

例えば、保身を優先する上司は、
・自分にとって扱いやすい人材
・自分の成果に貢献してくれる人材
などを高く評価する傾向があります。

これは、組織としての最適ではなく、“評価者の個人的都合”の評価が入り込んでいる状態です。

つまり、人は「事実」を見て評価しているのではなく、「解釈したもの」を評価しているのです。

この前提に立てば、人事考課(査定評価)は、構造的に歪む可能性を前提に設計する必要があります。

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第3章 人事考課の基準が行動を歪める ― 測ることの副作用

人事考課(査定評価)は、単に現状を測るだけではありません。
その基準そのものが、現場の行動に影響を与えます。

特に、昇進や昇給といった処遇に直結する以上、社員にとっては「自分の将来」に直結する大問題です。

その結果、現場では次のような行動が生まれます。
・人事考課(査定評価)の基準に合わせた動き
・短期成果の優先
・数値化しやすい仕事への偏り
・評価されにくい重要な仕事の後回し
このような状況では、本来の目的から少しずつズレが生まれていきます。

価値を生み出すための基準であったはずのものが、「評価されるための行動基準」に置き換わってしまうのです。

この現象は、「グッドハートの法則」という考え方で説明することができます。

グッドハートの法則
――指標が目標になると、その指標は本来の意味を失う――

多少乱暴ですが、今回の場合、要は「目的と手段が入れ替わる」ことの問題点を指摘していると考えてください。

ここで重要なのは、「指標そのものが悪いのではない」という点です。

本来、指標は現状を把握するための“手段”です。
しかし、それが評価や報酬と結びついた瞬間、意味合いが変わります。

人は自然と、「その指標を良く見せること」に意識を向けるようになります。

例えば、「製品の質を上げる」目的で「不良品の修正数」を指標にした場合に、修正数の数字を追うことに必死になって「製品の質」に意識が向かなくなるなどを指します。

その結果、
・本来の目的とは異なる行動が増える
・短期的に数字を作る工夫が優先される
・長期的に価値を生む行動が軽視される
といったズレが生じます。

つまり、指標が「現状を測るためのもの」から、「達成すること自体が目的」に変わった瞬間に、その指標は現状を正しく表さなくなるのです。

その結果、現場では「何をすべきか」ではなく「何をすれば評価されるか」で行動が決まるようになります。 

第4章 人事考課が現場に与える影響 ― 主体性はどう変わるか

ここまで見てきたように、人事考課(査定評価)は従業員の行動を方向づけます。

では、その結果として現場ではどのような変化が起きるのでしょうか。

・挑戦しなくなる(失敗=評価低下のリスク)
・無難な選択が増える
・評価者の意向を優先する

つまり、人事考課に対応して「行動のルール」が自然発生的に作られているのです。

この状態が続くと、人は次第に気付きます。「自分で考えて動くことは、リスクになるかもしれない」と。

そして、「自分で考える事の危険性」に気付き、「自分で目的を設定して動く必要がない」という状態が生まれてしまいます。

主体性がないのではありません。主体性を発揮すると不利になる構造があるのです。

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第5章 ではどうするか ― 「現状」を未来につなげる視点

ここまでを整理します。

人事考課(査定評価)は、会社の「現状」を把握するための仕組みです。しかしその実態は、主観によって歪みやすく、行動にも大きな影響を与えています。

では、この仕組みをどのように捉え直すべきでしょうか。

ここで、私から提案です。

多くの人事考課は、実績や成果といった「過去」に強く依存しています。
しかしそれだけでは、会社の未来にはつながりません。

そこで、
「未来のために何をしているか」を見る査定評価を組み込むべきではないでしょうか。

例えば、
・新しいことに挑戦しているか
・将来に向けたスキルを身につけているか
・次の役割を見据えた行動をしているか

こうした視点が加わることで、人事考課(査定評価)は「過去の判定」から「未来につなげる評価」へと変わります。

さらに、もう一つ提案です。

これは私オリジナルではありませんが、非常に重要な観点です。
それが、評価を一人に依存させないという考え方です。

上司一人の視点だけでは、どうしても主観や関係性の影響を受けます。
そこで有効になるのが、いわゆる【360度評価】です。

これは、
上司だけでなく、同僚や部下、場合によっては取引先の担当者など様々な意味での関係者の複数の視点から評価を行う方法です。

・評価の偏りを補正する
・“評価者の個人的都合”の影響を軽減する
・評価に対する納得感を高める
といった役割を持ちます。

もちろん万能ではありませんが、
「人事考課(査定評価)は歪む」
という前提に対する、現実的な対処手段の一つであることは間違いがありません。

人事考課は、本来「現状を測るだけの仕組み」ではありません。現状を起点に、未来へとつなげるための仕組みです。

では、その“未来につなげる機能”は、なぜ多くの企業で弱くなってしまうのでしょうか。

次回は、人事評価に焦点を当て、「将来をつくる評価」がなぜ機能しなくなるのかを掘り下げていきます。

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