[主体性]第4回:主体性は“作らせる”ものではない ― 従業員満足度・エンゲージメント・主体性の関係

序章 なぜ「主体性を求める会社」ほど主体性が減るのか
「もっと主体的に動いてほしい」
これは、多くの経営者や管理職が抱える悩みです。
しかし一方で、主体性を“要求”され続けるほど、人が動きにくくなる場面があることも、現場では少なくありません。
第1回では、「主体性とは何か」という定義のズレについて整理しました。
第2回では、「主体性は誰でも持っている。ただ、発揮できる場が無いだけ」という話をしました。
そして第3回では、「主体性の表れ方は人によって違う」という点を、MBTI理論や深層的多様性を通して考えてきました。
ここまでを踏まえると、主体性とは「命令して作るもの」ではないことが見えてきます。
では、経営者や管理職は何をすれば良いのでしょうか。
最終回では、「従業員満足度」「エンゲージメント」「主体性」の関係から、そのヒントを考えていきます。
第1章:従業員満足度は、主体性の「土台」になる
第2章:「働きやすい」だけでは、輝く組織にはならない
第3章:主体性を下げる組織の共通点
第4章:主体性を引き出す経営者の共通点
第5章:主体性は、「関係性の中」で育っていく

第1章 従業員満足度は、主体性の「土台」になる
従業員満足度が高い職場では、主体的な行動が増える傾向があります。
これは決して偶然ではありません。
従業員満足度というと、「居心地の良さ」だけをイメージされることがあります。しかし実際には、それだけではありません。
- 安心感
- 信頼感
- 相談しやすさ
- 挑戦への許容
- 承認される感覚
こうしたものが積み重なることで、人は「ここで働き続けたい」と感じるようになります。
そして、従業員満足度の向上は、顧客満足度や離職率低下にも大きく関係しています。
従業員が疲弊し切った状態で、顧客へ良いサービスを提供し続けることは難しいでしょう。だからこそ、従業員満足度は経営において非常に重要な土台なのです。
ここで参考になるのが、「心理的安全性(Psychological Safety)」という考え方です。
Googleが実施した「Project Aristotle」では、高い成果を出すチームの共通点として、“心理的安全性”が重視されました。
心理的安全性とは、
「意見を言っても大丈夫」
「失敗しても人格否定されない」
という感覚を持てるチームであることが、組織成果にも良い影響に繋がるという話です。
主体性も同じです。
否定され続ける環境では、人は徐々に発言しなくなります。逆に、「話しても大丈夫」と感じられる環境では、人は自然と考え、動き始めます。
主体性は、安心感のある土壌で育ちやすくなるのです。

第2章 「働きやすい」だけでは、輝く組織にはならない
ここで、一つ興味深い考え方があります。
日本経済新聞では、「働きやすさ」と「働きがい」を軸に、組織状態を整理したマトリクスを紹介しています。
心理的安全性の高い組織と言えば、パッと思いつくのが「ホワイト組織」と呼ばれる状態です。
ホワイトとブラックの2つしかなかった時は「ホワイトの方が良い」だけでしたが、今回はそこに「働きがい」という軸が加わっています。
・安心して働ける
・人間関係が良い
・休みが取りやすい
・無理な圧力が少ない
こうした環境が、まさに主体性発揮の土台になります。
これは非常に大切なことです。

ただ一方で、働きやすい「だけ」では、主体性や成果へ繋がり切らない場合が多いのです。
もちろん、ホワイト組織は、ブラック企業や、昭和時代を彷彿とさせる成果主義に偏ったモーレツ組織より、多くの従業員にとっては健全です。
少なくとも従業員の離職はかなり軽減される結果に繋がっています。
しかし、そこからさらに、
「この会社をもっと良くしたい」
「自分も組織へ貢献したい」
という感覚まで高まった時、組織は“プラチナ組織”へ近づき始めます。
そのプラチナ組織になるために重要になるのが、「エンゲージメント」です。
従業員満足度が、「安心して働ける状態」だとすれば、エンゲージメントは、「会社との心理的つながり」と言えます。
つまり、
働きやすさ
↓
エンゲージメント
↓
主体性
という流れが生まれやすくなるのです。
従業員満足度が高い企業は、エンゲージメント向上にも繋がりやすい。もちろん主体性も発揮しやすくなる。
この流れの根幹だからこそ、従業員満足度を軽視してしまってはいけません。
言い方を変えると、主体性とは単なる根性論ではなく、組織状態の影響を強く受けるものなのです。

第3章 主体性を下げる組織の共通点
主体性が出にくい組織には、共通点があります。
- 失敗を許容しない
- 意見が否定される
- 上司が保身的(上司ガチャ、大ハズレ)
- 挑戦より前例優先
- 「どうせ変わらない」が蔓延している
- 評価基準が不透明
こうした状態では、人は次第に「余計なことを言わない方が安全だ」と学習していきます。
第2回で触れた、「主体性を摘み取る6M(無理・無駄・面倒・難しい・向いていない・儲からない)」にも繋がる話です。
人は、環境へ適応します。
つまり、「主体性が低い組織」というより、「主体性が出にくい空気へ適応した結果」と考えた方が、実態に近い場合も少なくありません。
ここで参考になるのが、「ピグマリオン効果」です。これは、“期待によって人の行動が変化する”という心理現象です。
期待されない環境では、人は徐々に挑戦しなくなります。逆に、「この人ならできる」と信頼される環境では、人はその期待に応えようと動き始めます。
主体性とは、個人の気合いだけで生まれるものではありません。組織から発せられる“空気”の影響を、大きく受けているのです。

第4章 主体性を引き出す経営者の共通点
主体性を引き出す経営者には、共通点があります。
それは、「管理」だけで人を動かそうとしないことです。
例えば、
・まず話を聴く
・否定から入らない
・失敗で人格否定をしない
・目的を共有する
・経営状況も含め、必要なことを隠し過ぎない
・裁量を少しずつ渡す
・小さな挑戦を歓迎する
・違いを受け止める
・従業員と、その家族を大切にする
こうした関わり方をしています。
第3回でも触れましたが、主体性の“出方”は人によって違います。
だからこそ、「自分と同じ動き方」を求め過ぎると、多様な主体性は消えていきます。
主体性を引き出す組織では、「安心」と「期待」が両立しています。ただ優しいだけでも、厳しいだけでもありません。
「まず肯定する」(安心)
「あなたに期待している」(期待)
「でも成果も求める」(厳しさ)
これらが程よく存在しているのです。

第5章 主体性は、「関係性の中」で育っていく
主体性は、個人だけの問題ではありません。いっそ組織の在り方の問題と捉えるべきです。
組織風土。
上司との関係。
承認のされ方。
挑戦への反応。
こうした日常の積み重ねが、主体性の総量を変えていきます。
主体性を高める組織は、特別な制度だけで作られるわけではありません。
日々の対話。
関わり方。
空気感。
信頼。
そうした、“目に見えにくい部分”を大切にしています。
主体性とは、「やらせるもの」ではなく、「自然と出てくる状態」です。
だからこそ、経営者や管理職には、「どう管理するか」だけではなく、「どう関わるか」が求められています。
ここまで読んでくださった皆さんなら、もうお分かりかと思います。
主体性は、誰もが持っているものです。
[ 特別な誰かだけの、特別な才能 ]ではありません。
しかし、その主体性が発揮されるかどうかは、組織の在り方によって大きく変わります。
否定され続ければ、人は黙ります。挑戦を笑われれば、人は動かなくなります。
逆に、「ここなら話しても大丈夫だ」と感じられれば、人は少しずつ考え、動き始めます。
つまり、主体性とは、“個人に押し付けるもの”ではなく、“組織全体で育っていくもの”なのです。
では、従業員の主体性を引き出すために、経営者として何をするべきなのでしょうか。
答えは一つではありません。
だからこそ、まずは今回のシリーズを通して、「自社では何が起きているのか」を見つめ直すところから始めてみてください。
そして、もし途中で整理が難しくなった時は、遠慮なくお問い合わせください。外部の視点を入れてみるのも一つの方法です。
従業員に主体性を求める経営者は多くいらっしゃいます。だからこそ、お伝えします。
主体性は、根性論でも精神論でもありません。組織風土や関わり方によって、大きく変化する“組織課題”であるということを。
だからこそ、いまこそ経営者が動くべきだ、ということを。


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