[仕組み]第4回「余白」の減少と、人生、そして地域へのコミット【投資】

シリーズ第1回では報酬に関する「仕組み」の不条理を、
第2回では関係性を阻害する「壁」を取り払う手法を、
第3回では内的エネルギー(主体性)を呼び覚ます「やりがい」の醸成、
についてお伝えしてきました。

第1回:「仕組み(みなし残業制度)」が、組織への信頼を根底から腐らせる ~【実体】
第2回:【関係】「上司選択」と「ニックネーム」:階層を溶かし、主体性を呼び覚ます
第3回:「やりがい」を仕組みでリデザインする:個人の目的と組織のベクトルを重ねる

報酬という「基礎」を整え、対等な関係という「柱」を立てた次に必要なのは、それらを強固に繋ぎ止める「鎹(かすがい)」の存在です。

今回は、会社が社員の人生や地域社会にいかにコミットし、信頼の根を張っていくべきかを考えます。

目次

  1. 1.減り続ける「鎹(かすがい)」と関係性の希薄化
  2. 2.「福利厚生施策:男性の育児休業」という高いハードルへの挑戦
  3. 3.子どもたちの居場所を作る:純粋な想いの波及
  4. 4.自身の理想を貫き、誰かのために動く
  5. 5.会社は「人生を共にする場所」になれるか

1.減り続ける「鎹(かすがい)」と関係性の希薄化

「鎹」という言葉をご存知でしょうか。

建築で木材同士を繋ぎ止めるコの字型の大きな釘のことです。
ことわざの「子は鎹」が示す通り、本来はバラバラになりかねない関係を繋ぎ止める重要な存在を指します。

かつての職場には、この鎹となる「余白」が点在していました。
チーム内の非公式な対話を生む「飲みニケーション」や、チーム外との情報交換の場であった「喫煙所」などがそれです。

しかし現代、これらは
「プライベート時間の使用」
「健康問題」
「非喫煙者との不公平感」
といった社会的流れによってその数を減らしています。

私がここで言いたいのは、飲みニケーションや喫煙を焚き付けることではありません。
事実、近年の風潮としては、こうしたものに対する参加の強制はできません。

それらが副次的に担っていた「部門を超えた繋がり」というメリットを補う、別の仕組みを用意することです。

関係性の希薄化を招き、情報の断絶が生まれやすくなっている今、失われつつある「関係性の質」を再構築するための仕組みが求められています。

例えば、名古屋市にある企業では、実際に「コミュニケーション費」として補助を行う仕組みを運用しています。
呑み会に限らず、ランチ会などで「部署内のコミュニケーションを図る」目的に対して、もちろん上限は有りますが、会社が補助を出しています。

こうした環境整備は単なる福利厚生ではなく、組織を繋ぎ止めるための会社からの切実な「投資」であると再定義する必要があります。 

2.「福利厚生施策:男性の育児休業」という高いハードルへの挑戦

社員の人生に寄り添う上で、今避けて通れないのが「男性の育児休業」です。
女性の産休(労働基準法)や育休(育児・介護休業法)は法で義務付けられているため、企業側もあらかじめ予定が立てられます。

しかし男性育休に関しては、企業側に「仕方なく」といった消極的な雰囲気がまだまだ感じられるのが実情です。

2022年(西暦(令和4年)4月1日)から段階的に施行されている「改正育児・介護休業法」により、企業には育休制度の周知や意向確認が義務付けられました。

さらに2025年(西暦(令和7年)4月1日)からは、従業員100人を超える企業に対し、男性の育休取得率などの目標設定と公表が義務化されるなど、公的な要請は急速に強まっています。

しかし、法が求めているのはあくまで「体制整備」です。
人手不足に悩む中小零細企業にとって、現場を回しながら男性社員に長期間の育休を促すことは、依然として極めて高いハードルがあります。

同じく愛知県にある別の企業では、この課題に対し、
『就業規則に「男性育休義務化」を盛り込む』
という決断をされました。

地域メディアでも
「誰もが遠慮せず、育休を取れる環境をつくりたかった」
と社長が自ら語られている通り、規則として「必須」と言い切る経営者の覚悟が、現場に「家族を優先していいのだ」という揺るぎない安心感を与えています。

周囲がサポートするのは当たり前、という空気感をいかに醸成するか。この運用の妙こそが、制度を「形骸化した義務」から「人生を支える仕組み」へと昇華させるのです。

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3.子どもたちの居場所を作る:純粋な想いの波及

「利他」という在り方・姿勢は、時に組織の枠を超え、地域社会へと溢れ出します。

同じく愛知県の別企業では、倉庫の一部を放課後の子どもたちに開放する取り組みを行っています。
社長の動機は、企業戦略的な地域交流では無く、ただ純粋に
「学校帰りの子どもたちが、学年を超えて共に過ごし、宿題を教え合ったり遊んだりできる居場所を作りたい」
という願いから始まったものです。

その場では小学生・中学生・高校生たちが放課後に集まり、バスケをしたり、工作をしたり、宿題をしたりしています。上級生が下級生に宿題を教えている姿もあります。
隣では大人たちが働いている訳ですが、その姿を自然に見て子供たちは少しの時間を過ごします。

この「純粋な利他精神」に基づく仕組みは、結果として地域貢献となっているだけでなく、そこで働く従業員にも大きな影響を与えています。

自分の勤める会社が地域に必要とされ、子どもたちの笑顔を作っている。その誇りと安心感が、社内の信頼関係をより強固なものにしているのです。

4.自身の理想を貫き、誰かのために動く

これらの企業の各社長の取り組みに共通しているのは、それらを打算的な「投資」として計算していない点です。

元法政大学教授の坂本光司氏は、その著書『日本でいちばん大切にしたい会社(あさ出版)』の中で、「五人に対する使命と責任」という経営哲学を説いています。

会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動
◇社員とその家族
◇外注先・下請け企業の社員
◇顧客
◇地域社会
◇株主

坂本光司「日本でいちばん大切にしたい会社」あさ出版、2008 より略式抜粋

社長たちの姿勢は、まさにその一人目である「従業員とその家族」、および四人目の「地域住民」に対する責任を、自身の理想を貫き、誰かのために動くという純粋な使命感から実践している姿に他なりません。

誰かのためにという「当たり前」を貫く経営者の姿勢。
それが結果として、社員との深い信頼関係を築き、それらをしっかりと繋ぎとめる【鎹】を作る「最強の投資」となっているのです。

5.会社は「人生を共にする場所」になれるか

経営者が社員の「人生」をどれだけ重く受け止めているか。

その姿勢が具体的な仕組みとなって現れたとき、組織は単なる「給与を得るための場」を超えた、共に歩むパートナーとしての存在になります。

社員を「替えのきく部品」とみなさず、一人の人間として、その家族まで含めて大切にする。

この「覚悟」こそが、失われた関係性の鎹を再生し、主体的組織への道を切り拓く一助となるのです。

次回、シリーズ〈仕組みを考える〉を通して述べてきたすべての要素を統合し、主体的組織における「管理の仕組みづくり」のあり方を総括します。

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参考:

  • 坂本光司 著『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)
  • 厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」
  • Made In Local「男性育休の社内ルール化!愛知県の熱処理企業が男性育休取得率100%を実現」
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