[エンゲージメント]第3回 エンゲージメントを崩壊させる「数字」の罠と、組織の三層構造【再生】

組織の熱量を高めようと手を尽くしている経営者の皆様。非常に多くいらっしゃることと思います。

前回の記事では、目先の「報酬」や「管理」が、かえって社員の主体性を奪い、組織を「依存体質」に変えてしまうリスクについてお話ししました。

これに対し、多くのリーダーはこう考えます。
「ならば、誰の目にも明らかな数字で、客観的で平等な評価をすれば納得感が出るはずだ」
と。

しかし、ここにまた大きな落とし穴があります。
実は「数字」という物差しを唯一の正解とした瞬間から、組織のエンゲージメントは静かに崩壊を始めるのです。

今回は、数値管理が招く「評価のパラドックス」と、組織を再生させるための三層構造について解説します。

目次

  1. 第1章 「平等」が「不公平」を生む皮肉
  2. 第2章 「数字」の罠:手段が「目的」にすり替わる恐怖
  3. 第3章 組織を再生させる「三層構造」の視点
  4. 第4章 実体である「人間」の土台を整える

第1章 「平等」が「不公平」を生む皮肉

経営者が「平等な評価」を目指して導入するKPIや数値目標。これらは一見、個人の感情を排したクリーンな仕組みに見えます。

しかし、この「結果しか評価しないマネジメント」こそが、現場の活気を削ぎ落とす要因となります。

もちろん、結果は確かに大切です。
企業ですから結果を出してもらわないと困ります。

しかし、この「平等という名の不公平」が蔓延したとき、社員は「真面目にやるのが馬鹿らしい」と感じ、自発的的貢献意欲を急速に失っていくのです。

  • [平等]:全員に同じ物差しを当て、出た数字だけで判断すること。
  • [公平]:個々の役割、プロセス、困難度、反映されにくい貢献を正当に扱うこと。

数字「だけ」を追い、数字「だけ」を評価する組織。では、地道に土壌を耕している「本当に頑張っている者」が報われません。

一方で、数字を作るのが上手い、いわゆる「要領の良い者」ばかりが評価されるようになってしまいます。

 半年粘ってやっと取れた成約も「1」
たまたま訪問した先で偶然取れた成約も「1」

これが従業員の心にどの様に投影されるのでしょうか?

第2章 「数字」の罠:手段が「目的」にすり替わる恐怖

なぜ、数値目標を強調しすぎると組織はボロボロになるのか。

そこには[グッドハートの法則(Goodhart’s law)]と呼ばれる心理的な力学が働いています。これはイギリスの経済学者であるチャールズ・グッドハートが提唱しています。

これは、[ある指標が目標(目的)になった瞬間、構成員は数字を追うようになる]という法則です。簡潔に言えば、「手段が目的としてすり替わってしまう」のです。

「社会的な意思決定において定量的な社会指標が使われれば使われるほど、その指標は汚職の圧力を受けやすくなり、監視しようとしている社会プロセスを歪め、破壊する傾向が強まる」
現象を指し、身近な例として
「教育における「テストの点数」を目標にした際、教育の質が歪む現象」
があります。

本来、売上や利益という数字は、顧客への貢献や価値提供の結果として現れるものです。しかし、経営者が数字の達成のみを強く迫ると、社員の意識に致命的な歪みが生じます。

すると何が起きるか。

顧客の利益を二の次にして強引な販売を行ったり、書類上の数字を操作したりといった、本質を無視した「数字合わせ」に全力を注ぐようになります。

数字上は目標を達成していても、実態としては顧客の信頼を失い、社員の心は荒廃していく。
これが、資本主義社会が陥りやすい「評価のパラドックス」の正体です。

 

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第3章 組織を再生させる「三層構造」の視点

崩壊したエンゲージメントを再生させるには、評価制度をいじる前に、組織全体の考え方をリデザインする必要があります。
または、組織全体の考え方をリデザインするための評価制度を段階的に変更する必要があります。

私は、組織の状態を以下の「三層構造」で捉え、下層(土台)から積み上げていくことをお勧めしています。便宜上、土台となる下層から解説します。

  • 【下層:関係の質(精神的土台)】 心理的安全、受容、共感。これが全ての活動を支える関係性構築の源泉であり、最も重要な土台です。
  • 【中層:思考・行動の質(自律的プロセス)】 この強固な土台があって初めて、社員は自ら考え、試行錯誤し、工夫する「自律性」を発揮できるようになります。
  • 【上層:結果の質(成果の表現)】 数字、KPI、定量評価。これらは下層と中層が正しく機能した結果として、最後に現れる「影」に過ぎません。

多くの経営者が、最も目に見えやすい「結果の質」だけを操作しようとして、その重みで「関係の質」という土台を自ら押し潰しています。

土台が崩れれば、その上の自律的な行動も、持続的な結果も生まれるはがありません。

 

第4章 実体である「人間」の土台を整える

この組織運営の本質に気づき、圧倒的な実績を残してきた名経営者たちがいます。

例えば、「かんてんぱぱ」で知られる、長野県伊那市にある「伊那食品工業」の塚越寛氏は、数字を追う「急成長」を戒め、社員の幸せを軸にした「年輪経営」を貫きました。
結果として48期連続の増収増益(黒字経営)という驚異的な記録を打ち立てました。

また京セラ・DDI創業者の稲盛和夫氏も、アメーバ経営という数字の仕組みを持ちながらも、その根底には「利他」という人間としての正しい在り方を説き続けました。
赤字倒産したJALの再建を託された際、徹底して幹部の意識改革と現場の「関係の質」向上に努め、わずか2年余りで再上場へと導きました。

両氏に共通しているのは、数字という「影」を追うのではなく、実体である「人間」の土台を整えることに心血を注いだ点です。土台が整うから結果が整います。

私達も両氏に倣って、時代の変化に合わせて土台を整えていきましょう。

経営者の真の仕事は、管理によって数字を絞り出すことではありません。社員一人ひとりの「関係の質」に目を向け、彼らが自発的に動きたくなる土壌を整えることなのです。

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次回はいよいよ最終回です。
この三層構造を具体的にどう実務に落とし込むのか。経営者が持つべき「覚悟」と、具体的なアプローチについてお話しします。

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