[仕組み]第2回「上司選択」と「ニックネーム」:階層を溶かし、主体性を呼び覚ます【関係】

前回、第1回:[仕組み × 主体性]第1回 「仕組み(みなし残業制度)」が、組織への信頼を根底から腐らせる ~【実体】は、「みなし残業制度」という不誠実な仕組みがいかに社員の信頼を損ない、主体性を奪うかについてお伝えしました。
信頼という土台が崩れた場所で、どれだけ「主体性を発揮せよ」と叫んでも、それは虚空に消えるだけです。
第2回では、視点を「関係性」へと移します。
仕組みの力を使って、硬直化した人間関係を解きほぐし、主体性が育つ土壌をリデザインする手法について考えます。
目次
- 1.組織図が作った「上が偉い、下は従う」の呪縛
- 2.「上司選択制度」:離れることで再確認できる「魅力」
- 3.「ニックネーム制度」:役割を脱ぎ、人格でつながる
- 4.結び:関係性は「仕組み」でリデザインできる
1.組織図が作った「上が偉い、下は従う」の呪縛
多くの日本企業において、組織図といえば「ピラミッド型」が一般的です。
しかし、この図が象徴する「上下」の配置が、いつの間にか「上司は偉い存在、部下は従う存在」という、本来あるはずのない「支配・被支配」の空気を作ってしまった可能性が非常に高いのです。
なぜ、私たちはこれほどまでに「上下」に固執してしまうのでしょうか。 そこには、人間特有の「楽をしたい」という心理的作用が働いています。
心理学には「代理状態(Agentic State)」という概念があります。
これは、権威者に従っている間、人は自分の行動の責任を自分ではなく「上の人」にあるとみなす心理状態を指します。
「上に従っていれば、自分で考えなくて済み、失敗しても責任を取らなくていい」
この思考停止は、人間にとってある種の「生存戦略上の楽さ」です。
しかし、この「楽さ」に甘んじている限り、主体性が芽吹くことはありません。
よくあるピラミッド型組織図から想像してしまう上下関係は、こうした無責任な依存関係を視覚的に正当化する装置として機能してしまいがちなのです。
現代の政治に対する有権者の無関心さは、まさにこの代理状態が発露してしまっている状態と言えます。
この心理的バイアスを構造から問い直したのが、資生堂の元社長・池田守男氏です。
以前の記事【「サーバント・リーダー」は弱さの象徴ではない:支えることで生まれる「最強の規律」】でも詳しく触れましたが、サーバント・リーダーシップを掲げた氏は、あえて組織図を「逆ピラミッド」に描き直しました。
経営者が一番下で現場を支える役割へと改めることで、結果として「上に責任を押し付けて思考停止する」という甘えを、構造的に許さない効果を生み出したのです。
最近では、上下の先入観を完全に排し、役割のつながりだけを示す「横型」の相関図を採用する企業が増えているのも、同じ危機感の表れと言えるでしょう。
2.「上司選択制度」:離れることで再確認できる「魅力」
ここからは、私が記事やホームページなどで拝見した各社の事例をご紹介します。あくまで表面的な推測を含む内容にはなりますが、関係性を再定義するヒントが隠されています。
札幌にある株式会社さくら構造では、「上司選択制度」というユニークな仕組みを導入しています。
これは、従業員が自分の直属の上司を自ら選ぶことができる制度です。定期的に希望を募り、組織の組み換えを行うことで、受動的に環境を受け入れるだけの状態を打破しています。
この制度は単に「合わない上司から逃げるためのもの」ではありません。
実際には、一度元の上司から離れて別のチームを経験することで、
「実は元の上司のあの厳しい指導には、これほど深い意図があったのか」
と、その独自の魅力や価値を客観的に再認識するケースも少なくないといいます。
「与えられた環境に受動的に従うだけ」
の依存状態から脱し、自ら環境を選択するというプロセスを通る。
それだけで、仕事に対する納得感は大きく変わり、本質的な信頼関係が再構築されます。
上司側にとっても「選ばれ続けるためのマネジメント」という健全な研鑽が求められるようになり、組織全体の質が向上していく効果が期待できますね。

3.「ニックネーム制度」:役割を脱ぎ、人格でつながる
言葉という最も身近な「仕組み」を変えることで、関係性を阻害する壁を取り払っている企業も増えています。
有名どころでは「株式会社メルカリ」や「Chatwork株式会社」など、業種を問わず「社内ニックネーム制度」を導入する潮流は確実に広がっています。
役職名で呼び合うことは、無意識のうちに「命じる側」と「従う側」という境界線を引き、情報の非対称性を生みます。
一方、ニックネームで呼び合う仕組みは、その「役割」の鎧を脱がせ、一人の人間としての対話を可能にします。
このニックネーム制度では、クスっと笑えるエピソードを耳にします。
新入社員にとっては、社長をニックネームで呼ぶことは最初は足がすくむほど緊張する体験かもしれませんが、一度その壁を越えてしまえば、風通しは一気に良くなります。
あまりにニックネームが定着しすぎて、数年一緒に働いているのに、
「実はお互いの本名を知らない」
という話が生まれるほど、そこには「役職」という壁のない、フラットな信頼関係が築かれています。
誰に対してもフラットに意見を言える、あるいは耳を傾けられる。
この心理的安全性が仕組みとして担保されているからこそ、現場からの改善提案や、自発的な行動が生まれやすくなるのです。
4.結び:関係性は「仕組み」でリデザインできる
「もっと主体性を持ってほしい」
そう願う経営者は、まず自社の組織に「主体的行動を阻害する仕組み」が放置されていないか、を疑うべきです。
ピラミッドを逆さにする。
上司を選べるようにする。
ニックネームで呼び合う。
これら一見風変わりな「仕組み」は、すべて従業員同士の関係性をフラットに保ち、壁を取り除く環境を制度として担保するためのものです。
主体性を「個人のやる気」や「性格」というあやふやなものに委ねるのではなく、環境そのものをリデザインすることで、人は動き始めます。
もちろん、こうしたフラットな仕組みにはデメリットもあります。
階層が溶けることで生じる責任所在の曖昧さや、意思決定のスピード低下といったリスクに、どう対処すべきか。
あるいは、長年培われた「上下の文化」が強い組織において、無理に形だけを導入すれば、かえって現場に混乱を招く恐れもあります。
ただ形を真似ればよいわけではありません。
大切なのは、その裏側にある「人間心理」と「組織の目的」を正しく合致させることです。
あなたの組織に本当に必要な「仕掛け」は何か。
それを見極め、土壌を耕し直すプロセスこそが、持続的な成長への唯一の道なのです。

参考:
- 池田守男, 『逆ピラミッド経営』
- 株式会社さくら構造, 採用サイト「上司選択制度」
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査」
- OECD.stat「Hourly Earnings (MEI)」

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