[仕組み]第1回 「仕組み(みなし残業制度)」が、組織への信頼を根底から腐らせる ~【実体】

前回のシリーズ第1回:[エンゲージメント]第1回 パレートの法則にすら届かない、日本企業の絶望的な現実【警告】では、日本企業のエンゲージメントが世界最低水準であるという衝撃的な現実をお伝えしました。

しかし、どれだけ「関係」を整えようとしても、組織の根本にある「仕組み」が不誠実であれば、その努力は砂上の楼閣に終わります。

新シリーズの第1回は、多くの企業が当たり前のように導入している「みなし残業制度」の実体について切り込みます。

目次

  1. クリエイティブを「作業」に変えてしまう構造
  2. 「選べない」市場が生む、納得感なき契約
  3. 信頼の崩壊:優秀な層から順に「心ここにあらず」となる
  4. その仕組みは、誰のためのものか

1.クリエイティブを「作業」に変えてしまう構造

私がかつて建築会社の広告宣伝部署で、デザイン業務に携わっていた頃の話です。 デザインという仕事の本質は、「より良い表現を」「もっと伝わる形を」という際限のない探求心にあります。当初の私にも、その情熱は確かにありました。

しかし、その情熱を静かに削ぎ落としたのは、会社が定めた「仕組み」でした。

どれだけ知恵を絞り、納得がいくまで時間外も脳に汗をかいてブラッシュアップを重ねても、報酬は1円も変わらない。それでも奮い立たせて頑張っても、既定の時間を越えて初めて数百円が付くという有様。成果への執着が、そのまま「自己犠牲」として処理されてしまう。その事実に直面し続けた結果、私のモチベーションはガス欠になっていきました。

一度ガス欠を起こすと、一晩経ってもガソリンは満タンにはなりません。

「頑張っても、正当に報われないなら、早く帰ってプライベートを充実させよう」 その感覚は、いつしか私を「時間が来たら、仕事が途中でも切り上げて帰る」だけの、淡々とした「作業員」のような心持ちに変質させてしまいました。プロとしての自負が、仕組みによって「作業感覚」へと引きずり下ろされた瞬間でした。

2.「選べない」市場が生む、納得感なき契約

現在の労働市場を見渡すと、多くの企業が「みなし残業制度」を導入しています。求職者の立場からすれば、実質的にそれ以外の選択肢を持てないという歪んだ現実があります。

その上で会社側は「労働契約にうたっており、本人が承諾したはずだ」と言うかもしれません。

しかし、この制度は「残業しなくても残業代がもらえる」と、一見しただけでは勘違いしてしまいやすい側面があります。実質、毎日のように残業をしないと帰れない現場の現実を知らないまま、あるいはメリット・デメリットを充分に比較・納得できないまま、労働者は契約を結んではいないでしょうか。

更に、この仕組みの怖さは、入社後にあります。 日々の業務で自らの責任感から仕事に向き合おうとしたとき。ふと給与明細と自分の労働実態を照らし合わせ、「本来あるべき残業代が、実は……」と気が付いてしまったその日から、組織に対する不信感の種は芽吹きます。

最初にこの矛盾に気が付くのは、誰あろう、企業にとって最も辞めて欲しくない、辞めてもらっては困る「自分の仕事に責任を持ち、成果を追求しようとする誠実な社員」からなのです。

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3.信頼の崩壊:優秀な層から順に「心ここにあらず」となる

エンゲージメント(Engagement)を直訳すると「忠誠」ですが、それは言い換えると「会社組織に対する信頼」を意味します。

私が提唱する「企業成長ロードマップ」では、好意的関心から信頼関係を築き、その先に「エンゲージメント(自発的貢献意欲)」、そして「主体性」が芽生える流れを描いています。エンゲージメントが満たされることで初めて主体性が発動するのであり、逆に言えば、エンゲージメントが落ちるということは、主体性もがた落ちすることを意味します。

[ここに画像:人的資本からみる企業成長ロードマップ]

経営者が、本来あるべき残業代の支払いを曖昧にするような姿勢を見せたとき、社員は会社に対して強い不平不満を感じるようになります。

報酬と成果のギャップを看過できなくなり、転職の機会をうかがい始めるのは、前述の通り、自らの能力に自信を持っている優秀な社員からです。超売り手市場の現在、誰かが辞めた後に新しい人材がいつ入る保証もありません。

仮に採用できたとしても、採用費だけでなく、一人前になるまで半年から数年を要する教育費、その間の部署の従業員の心身的負担など、その代償は想像以上に高くつきます。超売り手市場という人材枯渇時代の現在、労働市場に、安易な「代わりの人材」などもう存在しないのです。

4.その仕組みは、誰のためのものか

添付したグラフ(OECD/厚生労働省データ)をご覧ください。1997年を100%とした場合、他国が賃金を上げている中で、日本だけが大きく右肩下がりを続け、2022年には88.6%という衝撃的な数値を示しています。

[ここに画像:日本の賃金指数の推移グラフ]

かつての昭和時代は、基本給こそ今より低かったかもしれませんが、働いたら働いた分だけ残業手当が正当に計算され、支給されていました。だからこそ、頑張りが収入に直結し、それが組織への信頼や「もっとやろう」という主体性に繋がっていた一面があります。

「基本給は上がっているはずなのに、なぜ総収入が下がっているのか?」 その背景には、こうした「当たり前の残業代」が仕組みによって不透明になっている現状があるのではないでしょうか。

「みなし残業制度」とは、企業の都合と労働慣行の中で“自然発生”した仕組みです。突き詰めれば「人件費というコストを固定化し、管理を楽にしたい」という、経営側の身勝手な都合ではないでしょうか。

その一時の「分かりやすさ」と引き換えに、最も重要な「社員からの信頼」という資産をドブに捨てていないか。ロードマップが示す通り、エンゲージメントの先にこそ主体性は宿ります。仕組み自らが「信頼」を奪ってしまっては、主体性の向上、生産性の向上、ひいては売上アップなど叶うはずもありません。

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出典・参考:

  • 厚生労働省「毎月勤労統計調査」
  • OECD.stat「Hourly Earnings (MEI)」
  • MIZUKAra [人的資本からみる企業成長ロードマップ]
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