[エンゲージメント]第2回 なぜ「ニンジン」をぶら下げるほど、社員は動かなくなるのか【疲弊】

多くの従業員を率いる中で、組織の熱量を高めようと手を尽くしている経営者の皆様も多いのではないでしょうか。

前回の記事では、「日本企業のエンゲージメント(自発的貢献意欲)がわずか6%という、世界最低水準にある」という衝撃的な現実をお伝えしました。

この停滞を打破しようと、多くのリーダーが真っ先に検討するのが「報酬による動機付け」「徹底した管理」なのかもしれません。

しかし、良かれと思って投じたこれらの施策が、皮肉にも
「社員の主体性を根底から損なう要因となっている」
としたらどうでしょうか。

今回は、なぜ「手厚い報酬」や「良質な管理」が、かえって組織を動かなくさせてしまうのか。
その裏側に潜む「依存」の構造を解き明かします。

目次

  1. 第1章 経営を疲弊させる「ドーピング」の構造
  2. 第2章 「慣れ」がエンゲージメントを麻痺させる:順応の罠
  3. 第3章 「管理」という名の責任転嫁:なぜ主体性は外部委託されるのか
  4. 第4章 管理を「手放す」ことで生まれる余白

第1章 経営を疲弊させる「ドーピング」の構造

社員の目が死んでいる。
指示待ちばかりで自ら動こうとしない。

そんな状況に危機感を覚えたとき、特効薬として使われがちなのが「特別報酬(ニンジン)」というブーストです。

「このプロジェクトを達成したら特別賞与を出す」
「目標達成率に応じてインセンティブを上乗せする」

こうした施策は、その瞬間のモチベーションを爆発的に高める「最大瞬間風速」を生み出します。しかし、これは組織運営における「ドーピング」に近い性質であるという認識はお持ちですか?

ドーピングの恐ろしさは、一時的な能力向上と引き換えに、自らエネルギーを生み出す基礎体力(主律性)を奪い去ってしまう点にあります。

一度味を占めると、社員は「報酬というガソリン」を注がれなければ一歩も動かない、極めて燃費の悪い状態へと変質してしまうリスクを孕んでいます。

 

第2章 「慣れ」がエンゲージメントを麻痺させる:順応の罠

なぜニンジンを与え続けると、社員は自ら動かなくなるのでしょうか。
それは、人間の脳が刺激に対して「慣れ」てしまうからです。

これには、二つの法則が働いています。


まず、アメリカの精神物理学者・心理学者であるハリー・ヘルソンによる[適応レベル理論]です。

人間は一度得た刺激を「基準点として設定」してしまいます。
例えば、10万円の特別報酬で一度歓喜した社員は、次も10万円をもらって初めて「現状維持(ゼロ)」と感じるようになります。
もし次が5万円であれば、たとえ報酬を得ていても「損をした」という強い不満すら抱くようになるという心理的作用です。

次に、イツの経済学者であるヘルマン・ハインリヒ・ゴッセンが提唱した[限界効用逓減(ていげん)の法則]です。

一杯目のビールは最高に美味いものですが、二杯、三杯と重ねるごとにその価値(満足度)は下がっていきます。
同様に、同じ手法のインセンティブを繰り返すほど、社員が受け取る心理的報酬の価値は目減りしていきます。


言い換えれば、一度特別報酬を出すと、以降はより多くの、より上質な報酬を出し続けなければならなくなるということです。

これでは従業員のモチベーションを保つためだけの「自転車操業」と大きく変わらなくなってしまいます。
事実、私が以前に話をさせて頂いた社長も、まさに同じ悩みを打ち明けていただきました。


結果として、社員の意識は「仕事そのものの価値」から「報酬の額」へと完全にすり替わります。

内側から湧き出るはずの「自発的貢献意欲(エンゲージメント)」は、外側からの刺激に対する「飽き」によって上書きされ、麻痺してしまうのです。

 

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第3章 「管理」という名の責任転嫁:なぜ主体性は外部委託されるのか

報酬で釣るのと表裏一体で行われるのが、失敗をさせないための「厳格な管理」です。

  • ミスを未然に防ぐための細かすぎるルール
  • 進捗の過度な監視
  • 失敗に対する「詰め」の文化

これらは一見、組織の品質を維持するために正当なものに見えます。

しかし、この「厳格な管理」こそが、個人のモチベーションを損なわせる大きな要因の一つです。

あまりにも精緻なマニュアルや、経営者によるマイクロマネジメントは、社員から「自分で工夫し、試行錯誤する余白」を奪い取ります。

その結果、社員の脳内ではある種の「責任の外部委託」が起こります。

「言われた通りにやるのが最もリスクが低い」
「失敗しても、指示通りにやっただけだと言い訳ができる」

簡単に言えば、自分で考えるより「はるかに楽」で「はるかに安定」して、更にそれで給料が毎月貰えるのですから、やらない方がバカみたいじゃないですか。

「余計なことを!」などと怒鳴られたりしないだけで、心の平穏が保てるように感じませんか?

こうして社員は、本来自分が発揮すべき主体性を、経営者に「預けて」しまうのです。

第1回で触れた23%の「濡れ落ち葉」層——アスファルトにへばりついて剥がれない雨上がりの落葉のように、ただ給料のためだけに在籍し続ける人々。

彼らの全員は、決して元からそうだったわけではありません。

過度な報酬依存と、息の詰まるような管理によって、「自ら考え、動く」という機能を停止させられた末の姿なのかもしれません。

 

第4章 管理を「手放す」ことで生まれる余白

経営者が外側からニンジンを吊るし、必死に尻に火をつけ続けている限り、社員が自らの意志で走しることはありません。

経営者が頑張れば頑張るほど、社員は「受け身」の姿勢を強めていく。この皮肉な循環を断ち切る必要があります。

エンゲージメントを覚醒させるために今必要なのは、さらなる刺激を与えることではなく、社員の「自律性」を奪っている要因を引き算していく勇気です。

具体的な手法についてはまた別の機会にしますが、心理的安全性を土台とした「受容と共感」や「合意形成」などを、土台に据えるのを、私はお勧めしています。

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次回(第3回)は、エンゲージメントを崩壊させている真犯人である「数字(定量評価)」の罠と、組織を再生させるための「三層構造」についてお話しします。

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