[教育 × 主体性]第4回:教育の最大級の投資 —「知恵のバトン(受け継がれるもの)」の渡し方

第3回では、組織が「過去の実績」を「人を導く人格」よりも優先して昇進させてしまう構造的な欠陥について切り込みました。

より正確に言えば、
「昭和的」「資本主義的」「定量的」な評価制度に縛られ、
◇目に見える数字という過去の栄光のみを評価し、
◇人を動かす土台である「人格」を評価対象外として切り捨ててしまっている。
これが実態ではないでしょうか。

看板(肩書)に見合う中身(人格)を伴わない管理職の存在は、組織を内側から蝕みます。

本シリーズでは、人の成長を「グラデーション」という言葉で表現してきました。
これは、教育や成長とは、ある日何らかのきっかけで完了するようなものではなく、異なる年代や立場の人間が影響し合い、色が混ざり合うように変化し続ける終わりのないプロセスだからです。

今回は、50代後半から、その先のセカンドキャリアを見据えたフェーズにおける「知恵のバトン」について考えます。

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第1章 「人財への支出」をコストから投資へ変える経営判断

経理上、人件費は「コスト」に該当するため、つい削るべき対象と考えてしまう経営者が少なくないのは理解できます。

費用は少ない方が会社の売り上げに貢献しますから、経理上の考え方としては間違っていない様に感じてしまいます。

しかし、会社の売上や未来を創り出すのは、他ならぬ従業員です。
5つの経営資源「人・物・金・時間・情報」の内、唯一、他の4つを活用して売り上げを上げる「人」です。

彼らに対する支出は、やはり「投資」と捉えてほしい、というのが私の本音です。

会社の「資産」とは、特定の誰かだけが持つものではありません。
若手が持つ新しい感性、中堅が担う実務の核、職種を問わず全従業員がそれぞれ持つ「知識」「技術」「経験」のすべてが、会社の未来を支える資産です。

ここで経営者に特に注視していただきたいのは、「業務の属人化」が孕む深刻な危険性です。
特定の業務がその人の資質や技量にのみ依存している状態は、一見その個人の活躍によって安定しているように見えます。

しかし、もしその属人化した技術が会社の支柱であった場合、その人がいなくなる(退職・休職・他)ことは、資産の消滅どころか、ともすれば会社そのものが瓦解する危険性すら孕んでいるという隠れた事実です。

こうしたリスクを回避し、個人の資産を「組織の共有資産」へと繋いでいく営みは、人材開発・組織開発の重要な機能のひとつです。

人材開発が「個人の可能性」を広げ、
組織開発が「人と人の関係性や文化」を整える。
それによって、個の知恵が淀みなく全体へ流れる土壌が作られます。

業務継承は、単なる事務的な引継ぎではなく、極めて慎重に、丁寧に、そしてタイミングよく行うべき実務のひとつです。

 

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第2章 「教える技術」が組織の代謝を加速させる

投資を確実に回収するために、避けて通れないのが「人に教える」技術です。

昭和の時代から、日本の現場教育は「背中を見て覚えろ」という徒弟制度的な側面が強く、系統立てた手法が確立されてこなかった背景があります。
そのため、現代のベテラン層の中にも、悪気はなくとも自身の「主観」や「直感」だけで教えてしまう方が少なくありません。

しかし、「何となく」で教えたものは「何となく」しか伝わりません。

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米国のNational Training Laboratoriesによる「学習ピラミッド」という研究から引用すると、単に講義を聞くだけの教育の定着率はわずか5%に留まると言われています。
一方で、人に教えるというアウトプットは、定着率を90%にまで高める、最も効率的な学習法でもあります。

年間延べ200回の研修に登壇している私個人の主観で言わせてもらうと、「他の人に教える」ということは、90%+αの効果があると考えています。

αとは、私自身のこれまでの「知識」「技術」「経験」が、【思考の錬金術】によって増幅され、自分なりの新しい結論に繋がる過程です。

コペルニクスが地動説を謳ったように。
ニュートンが万有引力の法則を提唱したように。
思考の世界では、「1+1=∞」に広がります。


教える側にとって、知識の再確認や棚卸しができることは大きなメリットです。さらに、教える側の心持ち一つで、組織は大きく変わります。

  • Specific(具体的か):誰が聞いても同じ行動がとれる、具体的で解釈の余地がない表現にする。
  • Measurable(測定可能か):進捗や成果を、数字や客観的な指標で振り返ることができるか。
  • Achievable(達成可能か):本人の実力や周囲の環境に照らして、現実的な目標設定か。
  • Relevant(関連性があるか):その教えが、組織の目的や本人の目指すキャリアと一貫しているか。
  • Time-bound(期限があるか):いつまでに身につけるか、時間軸を明確にする。

ベテランの「勘」をこの「SMART」というフレームワークに沿って客観的な「スキル」へ翻訳することは、組織全体の共通言語を創り上げるプロセスそのものです。

 

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第3章 ただ教えるだけではない。 「学び合い」が育む、強い組織文化

経営者が従業員に対し、「教えることは自らの学びでもある」という意識を浸透させることができれば、組織には「学び合い、高め合う」文化が芽生えます。

教える側が、
「共に学び、共に育つ」=【共育】
というマインドセットを持つことは、組織全体に成長の機会を拡げます。

人に教えることによって、単に教務をこなすだけでなく、
・業務の改善ポイントに気づいたり、
・新しいテクノロジーへの理解が深まったり
と、教える側自身の視野が劇的に拡大することがデータ(パーソル総合研究所「OJTに関する定量調査」)でも示されています。

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この継承の本質は、マニュアルの受け渡しではありません。

「なぜ、この仕事が必要なのか」
「この局面で、何を最優先すべきか」

こうした仕事の本質や目的、つまり「判断の軸」を伝承することにあります。

次世代がその知恵の上に立ち、迷いなくさらに高く飛べるための「思考のバトン」を渡す。
この丁寧なプロセスを経て、組織は一つの意志を持った強い生命体へと進化するのです。

 

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第4章 世代を超えて知恵を紡ぎ、循環させる

業務継承とは、単にベテランから若手へ一方的に知識を流す作業ではありません。
ベテランがその職業生涯を通じて培った知恵や想いを次世代へと紡ぎ、それを受け取った若手が新たな感性で磨き上げ、また次の世代へと繋いでいく営みです。

学生時代の学びの姿勢が若手の糧となり、
管理職の人格が組織を支え、
ベテランの継承が再び次世代を動かす。

この全世代を貫く「知の循環」こそが、組織が時代を超えて生き残るための「健康的な代謝」です。
知恵を抱え込まず、循環の輪に繋げ、紡いでいくこと。それこそが、ベテラン層が担うべき最も付加価値の高い経営貢献です。

 

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第5章 昭和の教育を脱し、OSを磨き続ける組織へ

ここまで4回にわたり、人生のグラデーションに沿った教育の在り方を辿ってきました。

かつて昭和の時代、教育は「特定の技術(アプリ)」を詰め込むことで事足りました。
しかし、変化が激しく多様性が求められる現代において、技術を動かす土台となる「人格や在り方(OS)」が未熟なままでは、どれほど高性能なアプリを載せても組織は機能不全に陥ります。

経済産業省が提唱する「社会人基礎力」においても、知識やスキル以前に、「前に踏み出す力」
「考え抜く力」
「チームで働く力」
というスタンスが根底に置かれています。
このOSが整って初めて、専門知識は真の価値を発揮します。

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人生100年時代の社会人基礎力

「技術を教える前に、人間としての在り方を整える」

ベテランから若手へ知恵が繋がり、若手の新しい視点がベテランを刺激する。
社長だけでなく、このブログを読む全ての世代が、互いに教え、教えられる双方向の「学びの循環」に参加する。

そんな組織には、自ずと「人財」が集まり、自然とハラスメントや停滞という「人罪」は消えていきます。

教育に終わりはありません。
学びに限度はありせん。

人格を磨き、知恵を繋ぐ。その終わりのない旅路を、あなたと共に歩めることを、私は心から願っています。

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こうして見ていくと、教育とは決して若手だけのものではありません。

学生時代の学びの姿勢が若手の土台となり、若手時代に培った在り方が管理職としての人格を形づくり、その人格が組織文化を生み出し、やがて次世代へと受け継がれていきます。

つまり教育とは、一人の人間を育てる活動ではなく、組織そのものを育てる営みなのです。

しかし、ここでひとつの疑問が生まれます。

同じように人を採用し、同じように教育へ投資しているはずなのに、なぜ「人が辞めていく会社」と「人が育ち続ける会社」に分かれてしまうのでしょうか。

その違いは、制度や待遇だけでは説明できません。

そこには、これまで本シリーズで繰り返し取り上げてきた「人格」と「主体性」が深く関係しています。

次回は特別編として、離職・採用・組織風土という経営課題を切り口に、「人格×主体性」が企業の未来をどのように左右するのかを掘り下げていきます。

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