[教育 × 主体性]第2回:会社教育の根本的な勘違い —「若手」という名のOS転換期

前回は、学校教育というシステムの中で「学びのスイッチ」を切ってしまった若者の姿について触れました。
この学びの停滞は、世代を追うごとにその姿を変え、組織に深刻な影を落としていきます。

本シリーズでは、学生から若手、ベテラン、そして次世代へ繋ぐ定年前後の方々まで、人生のステージに合わせた「教育の再定義」を試みます。

第1回での「学びの姿勢」に続き、第2回となる今回は、まさにその入り口に立つ「若手社員」のフェーズに焦点を当てます。

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第1章 「既に備わっている」という致命的な思い込み

長年、新入社員研修の現場で、講師として延べ数百人の新入社員と、そして様々な企業で管理職の方々と関わってきた中で、強く感じます。

企業が新入社員や若手社員に向けて教育を設計する際、無意識のうちに置いている、ある決定的な「前提」があります。

それは、社会人としての「在り方」や「当事者意識」、あるいは「誠実さ」や「規律」といった『人としての土台』は、学校や家庭ですでに十分に学んできているはずだ、または、その程度のことは教えなくてもできて当然だ、という思い込みです。

「まだみなさんの半分も生きていない若者が、物心ついて15年くらいの若者が、皆さんと同レベルの人格を持っている」
こんな前提で教育を完了させてしまっていませんか?

現実はどうでしょうか。

第1回で述べた通り、20数年間もの間、一貫して「受動的な学び」というシステムの中に浸かってきた彼らは、いわば「日本的教育の被害者」という側面を持っています。

自分で問いを立て、周囲を巻き込み、主体的に動くという訓練を一度も受けないままビジネスの現場に放り出された若手。
彼らに対し、それらが「社会人なら当然持っているべき基礎」として自動的に備わっていると考えるのは、あまりに酷な勘違いと言わざるを得ません。

この前提の履き違いこそが、いつまでも矯正できない組織の歪みの起点となっている、と私は考えています。

 

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第2章 「学生OS」から「社会人OS」へのアップグレード

ここで、経済産業省が提唱している「人生100年時代の社会人基礎力」という概念を引用しましょう。

そこでは、
「前に踏み出す力」
「考え抜く力」
「チームで働く力」
という3つの能力が定義されています。

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人生100年時代の社会人基礎力

これらは単なるスキルではなく、まさに社会人として活動するための根源的な力です。

パソコンに例えるなら、こうした人としての土台(在り方)は「OS」であり、実務スキルは「アプリケーション」です。

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「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料より抜粋

学生までのOSは、(この表現は学生に酷かもしれませんが)いわば「正解を与えてもらい、数値で定量的に評価される側」のために最適化されたものでした。

しかし、社会人に求められるのは「自ら価値を生み出し、責任を負う側」として機能する、全く別次元のOSです。

このOSが学生気分のまま、あるいは不安定な状態で、どれほど最新のITツール活用術やプレゼン技術といった、流行りの「アプリ」をインストールしても、現場では不具合が続出します。

「何度教えても自分から動かない」
「マニュアルがないと手が止まる」
という事象は、本人の能力不足だけが原因ではありません。

それを動かす土台となる「社会人OS」がアップグレードされていないがゆえに、
・アプリが正常に作動していない、
・ちゃんとインストールできていない、
あるいは
・インストールに膨大な時間がかかっている
だけなのです。

企業が行うべき真の教育とは、スキルを詰め込む前に、このOSのアップグレードという「在り方の変容」を促すことに他なりません。

 

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第3章 若手時代にこそ「不器用な土台」を磨き抜く

20代という吸収力も柔軟性も高い時期に、目に見える成果を求めて、効率やテクニックといった「アプリ」の習得を急がせたい経営者や上司の気持ちは、私にも充分にわかります。

即戦力という言葉が躍る昨今、すぐに使える「型」を教える方が、一見すると合理的だからです。

しかし、それだけでは、OSが惰弱なまま「小器用なだけの社員」が出来上がってしまいます。

一見、要領よく仕事をこなしているように見えても、土台が固まっていないため、想定外の困難に直面した瞬間に脆く崩れ去ってしまう。
あるいは、自分の評価や損得だけで動く「部分最適」な人間として固まってしまうのです。

若手のうちに、「不器用でもいい、まずは人としての在り方を磨く」という教育の優先順位を正さなければなりません。

この時期に
「なぜ働くのか」
「誰のために価値を届けるのか」
という本質的な問いと向き合い、OSのバージョンを徹底的に高めておくこと。

本来であれば、産官学連携でそれが叶えばどんなにも理想的だと考えます.しかし、その実現を待っていることもできない現状、できることはどこにあるのでしょうか?

 

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第4章 未完成のOSが、次の世代を歪ませる

若手が抱える「在り方」の歪みは、決してその場しのぎの課題ではありません。
そのまま放置されれば、10年後、20年後に、その組織にとっての致命的な重荷となります。

彼らはやがて、教育を受ける側から「教育をする側」へと回り、自らの歪んだOSを後輩たちに伝播させていくからです。

土台が未完成なままキャリアを積み、役職という看板を手にしたときに何が起きるのか。

近年の企業の不祥事やコンプライアンス違反、深刻化するハラスメント問題がこれほどまでに顕在化してきたことと、この「OSの未成熟」の因果関係は、かなり大きいと私は考えています。

地位に見合う人格、つまりOSの強度が伴わないまま、強力な権限(アプリ)を行使することの危うさ。

その結果が、社会的制裁となってしまった企業が今どうなっているのか。
皆さんもニュースなどでよく見かけるのではないでしょうか?

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次回のテーマは、このグラデーションの次なる段階、組織の中核を担う「ベテラン社員」に訪れる罠です。

京セラやKDDIを創業し、倒産したJALを鮮やかな手腕で再建させた稲盛和夫氏。
彼が説いた「人格と地位」の峻烈な視点から、なぜ「仕事ができるだけのベテラン」が、知らず知らずのうちに組織を崩壊へと導いてしまうのか、その残酷なメカニズムを解き明かします。

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