[リーダーシップ]第2回:「サーバント・リーダー」は弱さの象徴ではない – 支えることで生まれる「最強の規律」

前回の記事『第1回:社長、いつまで「現場のトッププレーヤー」を続けるつもりですか?』では、リーダーが現場で自らバットを振るい、ヒットを狙い続けることの限界をお伝えしました。
組織が次のステージへ進むためには、社長が「トッププレーヤー」を卒業し、部下の主体性を引き出す「在り方(存在)」と「関わり方(技術)」を統合させる必要があります。
今回は、その土台となる在り方の核心、サーバント・リーダーシップについて深掘りします。
第1章 「環境を整える」という、リーダー最大の仕事

サーバント・リーダーシップ。
その言葉を直訳すれば「奉仕するリーダーシップ」とされます。
しかし、その本質は言葉の響き以上に能動的です。
奉仕と聞くと、どこか部下に媚びたり、甘やかしたりするような印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、サーバント・リーダーシップの実態は、もっと能動的な「環境を整える」という現れ方にあります。
その在り様は執事の様に、チームの動きを先読みしてメンバーが仕事しやすい環境を整えます。

「さっきの君の提案、部長に話を通しておいたよ。部長興味持っていたから、資料作ったら早速プレゼンしに行こう」
「この企業さん、SNSとかの発信見てるとうちのサービスと相性が良さそうだよね。アタックしてみたら?」
部下がプロフェッショナルとして自走するために必要な、障害を先回りして取り除き、彼らが100%の力を発揮できる舞台を創り出す。プレイヤーとしての経験も活かせる瞬間も多いはずです。
自分一人が現場で汗をかき、背中を見せ続けることは、慣れ親しんだ道かもしれません。
しかし、自分が動く手を止め、部下という「神輿(みこし)」を担ぐ側に回る。これには、目先の称賛を部下に譲る潔さと、はるかに高い精神性が求められます。

第2章 名経営者たちが体現した「担ぎ手」としての覚悟
日本を代表する名経営者たちの歩みを見れば、この在り方が決して弱さではなく、組織を動かす真の強さであることが分かります。
伊那食品工業株式会社 最高顧問・塚越 寛 氏
「社員を幸せにするために会社がある」という年輪経営を貫かれています。塚越氏の覚悟を象徴するのが「非上場の継続」だと感じます。
「上場すれば株主のための経営を余儀なくされ、それは従業員が働きやすい環境を壊すことになり兼ねない。私の目の黒いうちは決して上場しない」
と言い切るその姿は、社員が安心して根を張れる土壌を守るための、まさに命懸けの環境整備です。
京セラ株式会社 創業者・稲盛 和夫 氏(故人)
京セラの創始者であり、KDDIの設立、そして倒産した日本航空(JAL)の再建を成し遂げた稀代の経営者です。
稲盛氏が説いたのは「利他(りた)の心」でした。
利他の対義語は自利(利己)ですが、それが自分を守る方向へ行き過ぎると、組織を蝕む保身へと変わってしまいます。
稲盛氏は、リーダーが保身を捨て、集団のために尽くす姿勢を自ら示すことで、JALの現場に「自分たちがこの会社を支えるのだ」という熱意を再燃させました。わずか2年余りでの再上場という奇跡は、リーダーが保身を脱ぎ捨てた結果に他なりません。
株式会社資生堂 元社長 / 会長・池田 守男 氏(故人)
日本でサーバントリーダーと言えば? と問われると、間違いなく池田氏の名前は挙がります。
それまでのピラミッド型の組織図をひっくり返し、組織図を逆三角形に描き直し、社長は現場でお客様と接する社員を支える土台であると定義し、「店頭(現場)が一番上、社長は一番下」という店頭起点経営を掲げられました。
権力の行使ではなく、現場の声を経営の柱に据える担ぎ手としての役割を全うされました。
他にもサーバントリーダーと呼んでも差し支えない経営者は数多くいらっしゃりますが、これら3社に関しては興味深い報告があります。
離職率は6%以下。
募集に対する応募率は11倍以上。
人手不足、売り手市場などの様に言われる現代に、この数字は驚きではありませんか?

第3章 リーダーの在り方が、眠っていた主体性に火をつける
なぜ、リーダーが神輿の担ぎ手に徹すると、部下の主体性が爆発するのでしょうか。
理由の一つとして、リーダーが保身を捨てて環境を整える姿そのものが、部下にとっての「究極の心理的安全」となるからです。
「失敗の責任はリーダーが取る。だから自分はプロとして最高のパフォーマンスを追求すればいい」という確信が持てたとき、部下の意識は指示を待つ受動的なものから、自ら価値を創造する能動的なものへと塗り替えられます。
この変化こそが、インナー・ディシプリン(内側から湧き出る自発的な規律)の正体です。
規律とは、ルールや罰則で縛るものではありません。
「リーダーが、自分の成功と幸せを誰よりも真剣に願い、神輿を全力で担いでくれている」
その在り方に触れた部下の中に、
「このリーダーを裏切りたくない」
「この期待にプロとして応えたい」
という強烈な自律の精神が育つのです。
この在り方があるからこそ、時にはあえて厳しい向き合い方も必要になります。私利私欲ではなく、「プロとして、今の壁を乗り越えてほしい」という、部下の将来に対する責任から発せられる言葉。それは単なる指導を超え、部下が自らの足で立つための「最後の一押し」となり、主体性を本物へと昇華させます。

第4章 あなたは「何のために」そこに立っていますか?
サーバント・リーダーシップとは、単なる管理手法ではなく、リーダー自身の器を問う旅です。
部下の失敗を自分の責任とし、部下の成功を自分のこと以上に喜ぶ。
この在り方にシフトしたとき、あなたの周りには指示を待つだけの人材ではなく、主体性という火を灯した志を共にする戦友が集まり始めます。
しかし、この環境を整える在り方という土台を固めた上で、現実にはもう一つの壁が立ちはだかります。「部下によって成長の度合いも、必要としている支援も違う」という事実です。全員を一律に担ごうとしても、ある者には重すぎて、ある者には物足りなくなってしまいます。
この土台の上に、具体的にどのような関わり方を積み上げていくべきなのか。
相手の状態を正しく見極め、主体性を最大限に引き出すための関わり方(技術)であるSL理論については、次回の記事で詳しく解き明かしていきます。
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